役職定年廃止、メリットとデメリットは

役職定年を廃止する企業が増えています。現在、多くの企業で役職定年制度を設置しており、働き手が55歳前後になると役職から外れます。ただ、問題は、役職定年と同時に給与も下がるので、労働意欲が低下する点です。あるシンクタンクによると、役職定年の意欲低下で生じる経済的損失は約1.5兆円になるともいいます。労働力人口が減る中、企業にとって、役職定年から本定年の間に位置する働き手のモチベーションを高く保つことが大きな課題として挙がっています。こうした課題を解決するためにも、役職定年制度は廃止すべき、という声が強まっています。

ただ、廃止には弊害も懸念されます。たとえば、役職定年がなくなり、シニア層が長く管理職にとどまると世代交代が滞ることが予想されます。そもそも、役職定年制度には「若手に道を譲る」という本来の目的がありますが、制度廃止により能力のある若手がリーダーシップを発揮する場が少なくなります。若手が「この会社で働いても役職に就けない」「給与が上がらない」などと、希望が持てない職場環境になってしまうと、今度は若手のモチベーション低下につながります。
また、中高年層の中には役職がゴールというケースもあり、役職についたらそこで成長もやる気も止まってしまう人もいます。こうした人には、役職定年は必要だという声も根強くあります。

中高年層の人材活用を図るため役職定年の廃止は有効ですが、単に制度を廃止するだけでは十分とはいえません。たとえば、ジョブ型雇用(仕事内容と求められる成果を明確にする雇用の形)など、評価制度を含めた施策が必要になりそうです。

加えて、2013年、企業は希望者を65歳まで雇用することが義務付けられ、2021年には70歳までの就業機会確保が努力義務となっています。50代で役職定年になり、70歳までの10年以上もの間、モチベーションが下がった状態で過ごすというのは、企業にとっても本人にとっても望ましいことではありません。こうした背景のもと、役職定年制度を廃止して、より有効な人材活用を図ろうとする企業が増えています。

とはいえ、制度廃止で、能力ある若手に役職が回らなくなるのも問題です。こうした課題を解決するために、ある家電大手のグループ会社では、課長職と部長職を公募制にするという施策を打ち出しました。
従来、大手企業では等級制度などを定め、課長になるのは最短でも30代以降という場合が多くあります。ところが、公募制にすれば年齢による制限はなく、能力のある人材を適切なポストで処遇することができます。成果が出せれば20代でも課長になれますし、定年まで役職を続けられます。ただ、成果が出せなければ、年齢に関係なく役職を降りることになります。

役職者にはシビアな評価が課されますが、従来のように、能力不足の管理職に対して、「もうすぐ役職定年だから」と周りが諦めて付き合う、といったこともなくなります。やる気も能力もある人が役職の座に長く就く。人事はあるべき姿を模索しながらも、進歩しているといえます。

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)